ブログ「東海・旅の足跡」をお読みいただき、ありがとうございます。
前回の更新(vol.1544)からの続きで、何かしら自身が経験した恋愛話を書けないかなと、記憶の底を揺り起こして、以下に紹介できる範囲で(デートの一コマです)。
夕暮れの波打ち際を二人で並んで歩いている。
突然、彼女がしゃがんで、砂の上に落ちている何かを拾った。
僕は貝殻だと思った。
彼女が拾ったのは、水色をしたガラスの破片だった。
僕が尋ねた。
「どうするの?」
彼女は「ひ、み、つ」と答えながら、片目をつぶって、くすっと笑った。
僕は自分が大好きな中原中也の「月夜の浜辺」の一節をそらんじた。
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。
それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
月に向ってそれは抛れず
浪に向ってそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。
彼女は黙って、海を見ていた。
二人で再び歩き出すと、彼女が「ボタンじゃないから」と言った。
僕が「そうだね」と相槌を打つ。
海からの潮風が音を立てて、ひときわ強く吹いた。
彼女が立ち止まり、両手で乱れた髪を抑えた。
彼女の肩を抱き寄せて、僕からキスした。
彼女が手に持っていたはずのガラスの破片が砂の上に落ちている。
僕はしゃがんで、砂の上に落ちているのを拾った。
彼女が尋ねた。
「どうするの?」
僕は立ち上がって、それを上着のポケットに入れた。
彼女がすかさず「返してよ」と、右手を伸ばしてくる。
僕は左手で彼女の右手首をつかんでひねると、「返すから、手のひらを見せて」と。
彼女が握ったこぶしをゆっくりと開く。
僕は上着のポケットから取り出して、彼女の手のひらの上に置くと、左手を放した。
それはガラスの破片ではなくて、あらかじめ用意しておいた貝殻のブレスレット。
彼女が少し驚いたような顔をした後、小さな声で何かをつぶやいたのだが、波音に消されて、僕には聞きとれなかった。
彼女は自分で左手首にブレスレットを付けると、そのまま左手を高く上げて、夕暮れの空を見上げている。
僕も横に並んで、空を一緒に見上げていたら、左手をそっとつかまれた。
お互いにつかんだ手の指を絡めて、自然と恋人つなぎになった。
後日談を併せて紹介。
彼女は僕に右手首をつかまれた際、本当は痛かったの、と教えられた。彼女がすぐに手のひらを見せなかったのは(彼女が握ったこぶしをなかなか開こうとしなかったのは)、それが原因だった。僕は緊張していて、つかんでいた左手に思わず力が入っていたようだ。
ということで、若かりし頃の僕は自分で少しばかり格好良くできたかなと、得意がっていたけれど、実はそうでもなかったらしい。
お誕生日おめでとうございます!!!!
返信削除あれ...今日でしたよね。
これからも、色々な場所をツーリングしてこのブログを書いていってくださいね!
そまそま様
削除いつも温かいコメントを寄せていただき、感謝しております。
また一つ馬齢を重ねてしまいました。
@shanghai