2017年12月13日水曜日

vol.1545 過ぎし楽しき時間(デート)

 ブログ「東海・旅の足跡」をお読みいただき、ありがとうございます。

 前回の更新(vol.1544)からの続きで、何かしら自身が経験した恋愛話を書けないかなと、記憶の底を揺り起こして、以下に紹介できる範囲で(デートの一コマです)。

 夕暮れの波打ち際を二人で並んで歩いている。
 突然、彼女がしゃがんで、砂の上に落ちている何かを拾った。
 僕は貝殻だと思った。
 彼女が拾ったのは、水色をしたガラスの破片だった。
 僕が尋ねた。
 「どうするの?」
 彼女は「ひ、み、つ」と答えながら、片目をつぶって、くすっと笑った。
 僕は自分が大好きな中原中也の「月夜の浜辺」の一節をそらんじた。

  月夜の晩に、ボタンが一つ
  波打際に、落ちていた。
  それを拾って、役立てようと
  僕は思ったわけでもないが
    月に向ってそれは抛れず
    浪に向ってそれは抛れず
  僕はそれを、袂に入れた。

 彼女は黙って、海を見ていた。
 二人で再び歩き出すと、彼女が「ボタンじゃないから」と言った。
 僕が「そうだね」と相槌を打つ。
 海からの潮風が音を立てて、ひときわ強く吹いた。
 彼女が立ち止まり、両手で乱れた髪を抑えた。
 彼女の肩を抱き寄せて、僕からキスした。
 彼女が手に持っていたはずのガラスの破片が砂の上に落ちている。
 僕はしゃがんで、砂の上に落ちているのを拾った。
 彼女が尋ねた。
 「どうするの?」
 僕は立ち上がって、それを上着のポケットに入れた。
 彼女がすかさず「返してよ」と、右手を伸ばしてくる。
 僕は左手で彼女の右手首をつかんでひねると、「返すから、手のひらを見せて」と。
 彼女が握ったこぶしをゆっくりと開く。
 僕は上着のポケットから取り出して、彼女の手のひらの上に置くと、左手を放した。
 それはガラスの破片ではなくて、あらかじめ用意しておいた貝殻のブレスレット。
 彼女が少し驚いたような顔をした後、小さな声で何かをつぶやいたのだが、波音に消されて、僕には聞きとれなかった。
 彼女は自分で左手首にブレスレットを付けると、そのまま左手を高く上げて、夕暮れの空を見上げている。
 僕も横に並んで、空を一緒に見上げていたら、左手をそっとつかまれた。
 お互いにつかんだ手の指を絡めて、自然と恋人つなぎになった。

 後日談を併せて紹介。
 彼女は僕に右手首をつかまれた際、本当は痛かったの、と教えられた。彼女がすぐに手のひらを見せなかったのは(彼女が握ったこぶしをなかなか開こうとしなかったのは)、それが原因だった。僕は緊張していて、つかんでいた左手に思わず力が入っていたようだ。
 ということで、若かりし頃の僕は自分で少しばかり格好良くできたかなと、得意がっていたけれど、実はそうでもなかったらしい。

2 件のコメント:

  1. お誕生日おめでとうございます!!!!
    あれ...今日でしたよね。
    これからも、色々な場所をツーリングしてこのブログを書いていってくださいね!

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    1.  そまそま様
       いつも温かいコメントを寄せていただき、感謝しております。
       また一つ馬齢を重ねてしまいました。
       @shanghai

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